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映画『ショート・ターム』:オススメ映画とちょっと勉強【日本の子どもの保護の現状】


WB-Club ブログ 男の子と女の子の写真

写真はイメージです。映画の内容とは関係ありません。

オススメの映画の紹介です。今回紹介するのは『ショート・ターム』

また、この映画は子供たちの一時保護施設を舞台にしているのですが、日本はどうなっているのかと思って、日本の子ども保護の現状についても調べてみました。


目次

 

『ショート・ターム』


この作品、海外では様々な賞を受賞しているということで見てみました。

結論から言うと、とてもよかったです。

物語の舞台は子供たちの一時保護施設『ショート・ターム12』。虐待や育児放棄によって傷付いた子供たちを保護し安全に生活させるシェルターです。原則子供たちは1年以内に施設を出るけど、長い人は3年以上いる人もいるとのこと。

施設の現場の職員は男女二人、他に新人の若い男性がやってくるところから物語が始まります。

扱っているテーマは重いはずなんですが、映画全体に流れる雰囲気のおかげで重苦しい感じはありません。

こういうテーマの映画にありがちな、感動を押し付ける作りになっていないので、リアルに感じて感情移入してしまいます。

恵まれない子供たちを助けてあげようとやってきた新人の男性職員なんですが、劇中で施設の女の子に唾を吐きつけられてしまいます。思い通りにならないからか、現実では助けてあげようと思っていた子が牙を剥いて来たからなのか、その新人は怒りに震えてしまいます。逆に顔にケーキを塗り付けられたベテランの女性は、同じくベテランの男性職員に『甘いケーキでしょ』と言われて笑っちゃう始末。

助ける側の施設の職員も様々な傷を負っているため、子供たちの気持ちがよりわかるのでしょうか。助けようと思ってもどうにもならないことが多いのに、それでも続けられるのは、自身も人に助けられ、愛されて救われたから、きっと未来はよくなると信じられるからなのかなと思いました。

映画のラストシーンに最高に幸せな出来事が訪れます。

 

日本の子どもの保護の現状

さて、映画では海外の一時保護施設が舞台でしたが、日本では実際どうなっているのでしょうか。ちょっと調べてみました。

日本の子供の保護施設の現状を、国際NGO (非政府組織)ヒューマン·ライツ·ウォッチのレポート等を参考に調べてみました。

まず日本における子供の社会的養護(実親、または適切な監護を行いうる保護者を欠いていると政府が 判断した児童に提供される養育。以下保護とします。)なんですが、2013年時点で全国 で3 万 9047 人の子どもが保護されています。その中の85%以上である約3万4000人の子供たちが児童養護施設に住んでいて、そのほかの子どもたちは里親宅、あるいは、ファミリーホーム(1 軒の家で 5~6人の子どもを養育する形態の社会的養護)で生活しているます。保護されて生活する子どもたちのうち、最終的に養子縁組されたのは303人(2011 年)とかなり少数です。

児童養護施設の平均在所期間 は約 55年で、日本における施設収容率は、他の先進国と比べて際立って高いとのことです。

国際人権基準では、保護下にある子どもを施設に収容するのは最終手段と定められており、拡大家族(extended family)による養育や養子縁組・里親養育が不適切でその子どもの最善の利益にならないと判断される場合に初めて、施設養育という最終手段を用いる、としているにも関わらずです。

施設偏重が特に問題になるのが乳児についてでです。2013 年度時点で約 3 000人の赤ちゃんが乳児院(乳児および幼児を養育する施設。)で 生活していますが、国際基準では、3歳未満の幼い子どもは、ほぼ例外なく家庭的な環境に置くべきと定められています。子どもの発達を専門とする多くの専門家が、3歳未満の子ど もが施設で育つと愛着障害や発達遅滞を生じ、脳の発達に悪影響を及ぼすリスクがあることを指摘しています。

 

一時保護所

親から虐待などを受けて保護された子どもが最初に入所するのは一時保護所ですが、ここにも拘束や長期化という問題があります。子どもは一時保護所の敷地から出ることを許されず、通学や外部交通も制限されます。(これ映画の中では、子供たちの行動を制限することはできなくで、出ていくのも止めることはできないとなっていましたが、正反対ですね。)

一時保護の期間は2カ月までと定められているものの、実際には何度でも延長できます。一時保護日数の全国平均は28日(2011年度)。長いものでは2年近いケースもあったとのことです。一時保護期間中、児童相談所は保護された子供を実の親の元へ戻すことを目指し、親子関係の調整を行います。しかし、問題の根本原因となっている家庭内虐待や、薬物依存などを克服するために親を支援する特別なプログラム等はほとんど存在しません。

 

養子縁組

養子縁組は、里親や施設による養護よりも子どものためになると一般的に評価されています。しかし児童相談所は養子縁組の活用には消極的であり、結果として2011年に児童相談所を介して養子縁組された子どもは303人にすぎませんでした。

日本には特別養子縁組制度があります。この制度では実の親子関係と同じような関係を築くため、実親と子どもとの親子関係は終了します。特別養子縁組の対象となるのは6歳未満の子どもに限られ、6カ月以上の期間監護した状況を検討の結果許可されます。愛知県など一部自治体では、子どもを養育する意思がない、あるいは、それができない妊娠した女性の相談にのり、特別養子縁組先を探す試みを行っていますが、多くの地域ではこの取り組みはなされていません。

 

養子縁組の問題

養子縁組は里親や施設による養護よりも子どものためになると一般的にされており、国も「養子制度等の運用について」という通知により児童相談所に対し、子どもが養子縁組を結べるよう努めるよう指示しているにもかかわらず、児童相談所側は養子縁組のあっせんに消極的です。2008年から2011年にかけて児童相談所を通して成立した養子縁組は年250から300件程度にすぎません。

児童相談所が養子縁組に積極的でない理由の1つは、緊急の児童虐待への対応に追われて余裕がなく、すでに自らの監護下にある子どもを施設に入所させる方が、個別に養子縁組を進めるよりも手間も時間も掛からないためです。

 

里親制度

保護が必要な子どものうち、里親に委託されているのはわずか 14.8%です。 日本政府は2010年、里親およびファミリーホームの委託率を2014年度までに16%に 引き上げるとの目標を掲げました。さらに2011年には、今後10数年で、本体施設(定員45人以下)、グループホーム(本体施設の下、民間住宅などでの養護を行う。定員6人)、里親およびファミリーホームをそれぞれ3分の1にする、との目標を掲げました。もっとも、多くの先進国において多ければ7~9割以上、そうでなくとも半数以上の子 どもが里親に委託されているものであり、この3分の1という目標数値自体が各国と比較すればとても低いといえます。

 

不適切な里親認定とマッチングの問題

里親委託はその内の4分の1が上手くいかず、多くの子どもが里親宅から施設に送り返されています。これは不適切な里親認定とマッチング手続きが原因と考えられます。

里親には十分な研修・支援・モニタリングが提供されていません。情報提供を行い、研修を実施する立場にある児童相談所は、人員も専門性も不足しています。また、政府も、里親の役割の重要性を社会にアピールすることができていません。結果として、十分な資質が備わっていない人びとが里親として登録されている場合も少なくありません。このことは障害など多様なニーズを持つ子どもを委託する際に特に問題となります。

里親認定はきわめて緩い基準で行われているようです。年齢、家の広さ、収入など若干の条件はありますが、申請されればよほどの事情がない限り認定され、その中には明らかに不適切な人が里親として認定されている場合があるとのことです。

 

なぜ里親制度が進まないのか

里親制度のほうが、児童養護施設といった手段より子供によっては望ましいことはわかっているのに、ではなぜ里親制度が進まないのでしょうか。

一つは児童相談所の職員など、保護に関わる人の人数が少ないこと。イギリスでは、人員配置基準は子ども1人あたり最低1人です。日本においては、2012年に見直された配置基準によれば、職員と子どもの比率は、職員1人あたりの2歳未満の幼児数は1.6人、2~3歳の幼児で2人、3~5歳の幼児で4人、少年(6歳以上)で5.5人です。このように少ない人員しかいないため、手間も時間もかかる里親制度といった手段を取ることができず、早急に保護するためとりあえず児童養護施設に預けるといったことがでてきます。

そしてもう一つ大きな問題が、残念ながら大人の事情であるということ。

日本では長年、児童養護施設等の施設での保護・養育を第一として行ってきたため、施設側との関係悪化を恐れて里親制度を進めることを躊躇してしまう場合があります。また里親制度を進めるということは、児童養護施設や乳児院の施設を縮小するということ。それはその施設で働く人の仕事が無くなってしまうということです

また里親への十分な支援とモニタリングがないことも問題です。もし里親により虐待が起こってしまった場合責任を問われることを恐れ、結局今まで通りに施設に子供を預けるケースが多くあります。

また実の親の意見が優先される場合が多い問題もあります。子どもを児童相談所や施設に預ける時には実の親の同意をとるのが慣習となっているのですが、その際里親に預けてもよいという親の同意がなかなか取れない現状があります。これは里親=子供を取られるというように思う人が多くいる人が原因と考えられます。

 

里親制度の種類

里親制度には次の種類があります

・養育里親―様々な事情により家族と暮らせない子どもを一定期間自分の過程で養育する里親です。

・専門里親―養育里親のうち、虐待・非行・障害などの理由により専門的な援助を必要とする子供を養育する里親です。

・養子縁組を希望する里親―養子縁組によって、子供の養親となることを希望する里親です。

・親族里親―実親が死亡・行方不明等により養育できない場合に、祖父母などの親族が子どもを養育する里親です。

(厚生労働省のパンフレットより)

 

保証人と自動車免許取得の壁

日本では、未成年のみならず成人であっても、住まいや仕事を得るために「保証人」が 必要となります。非常に限られた例外を除いて、アパートやマンションを借りるにも雇用契約を交わすにも保証人がいなければことが進まないことが多いです。未成年であれば、親権者なしには 携帯電話を入手することさえ困難な場合があります。通常であれば、家族がこうした役割を 引き受けてくれるが、社会的養護出身者にはそれを頼める相手がいないのが現状です。

 

養子縁組された子どものほうが自己肯定感が高い

2016年日本財団の行った養子縁組家庭へのアンケートで興味深い結果が出ました。

その中の『自分自身に満足しているか』という質問に対し、『そう思う・どちらかといえばそう思う』と答えた人の割合が70%を超えました。

平成23年に全国の中学3年生を対象に行われた調査では、同じ質問に対し『そう思う・どちらかといえばそう思う』と答えた人の割合は46.5%となっており、養子縁組された子供の方が自己肯定感が高いという結果が出ました。

また『親から愛されているか』という質問に対し、養子縁組された子供は63.5%が『そう思う』と回答している一方、全国の中学3年生ではその割合が45.5%でした。

対象年齢も規模も違うために単純には比較できませんが、養子縁組に対する一般的なネガティブなイメージとは違う結果が出たことは興味深いところです。

 

終わりに

2016年6月には、改正児童福祉法が公布され、児童相談所の体制の強化、里親や養子縁組の家庭養護の推進が図られることになりました。

現在でも自治体の積極的な取り組みによって、保護された子供のうち里親制度下にいる子供が半数近くのところもあるようです。

映画から始まって気になって調べてみたら、自分も知らないことばかりでした。

まだまだ他の先進国と比べて子供の保護が遅れている状況がありますが、ちょっとしたことでもきっかけに興味を持ってもらえたら、そして子供たちの未来がちょっとでもよくなるようにできたらいいなーと思います。

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